筋肉の名称

病院の入退院を繰り返したため、リハビリ(Herzrehabilitation {f})を余儀なくされました。その一環として筋トレをすることになり、その中で「何々筋を鍛える」などと「筋肉」という言葉を頻繁に聞かされます。常にドイツ語とリンクしてしまう悪い癖で、そこで聞いた筋肉をドイツ語で何と呼ぶのか調べ始めていました。

筋肉を表す「Muskel {m}」という単語は知っていても、人体のそれぞれの筋肉の名称についてはまったく無知なことを実感しました。日本語でもほとんど知らないのだから当たり前です。そもそも訳すべき単語を知らなければ辞書を引くことすらできません。腹筋、背筋、上腕二頭筋、横隔膜とそれ以外は頭に浮かんできません。正直に言えば、横隔膜が筋肉だということも初めて知りました。

そこでさらにびっくりしたのは、ドイツ語の筋肉の名称はほとんどラテン語由来、いえそれどころかラテン語そのままであることです。ドイツ語の名称が付いているのは日常で使う筋肉だけです。よく考えてみれば当たり前です、ラテン語の名称があるのにわざわざドイツ語に直す必要がないのでしょう。アルファベットはラテン語に由来しています、読み方もドイツ語に似ています。そういったことも手伝ってラテン語の単語が残ったのでしょう。

一例を示します。手を動かしている筋肉の総称を手筋(しゅきん)と呼ぶそうです。
ラテン語では

  • musculus manus

ドイツ語では

  • Musculus manus {m}

です。違うところは語頭が大文字になっていることだけです。男性名詞なのはドイツ語の「Muskel」が男性名詞だからでしょう。予想は付くでしょうが「manus」は手という意味です。手筋は12本の筋肉の総称ですから通常は複数形を用います。ラテン語では筋肉の部分だけ語尾変化して

  • musculi manus {pl}

ですから、ドイツ語ではそれに倣い

  • Musculi manus {pl}

となります。元のラテン語「musculus」は単数形も複数形も格変化するのですが、ドイツ語「Musculus」は格変化しません。格の意味が違うので合わせようがありません。

実は、ドイツ語では手筋を「Handmuskel {m}」とも言います。無責任なことは言えないので、恐らく、と前置きしますが、医者が使うのはラテン語由来の「Musculus manus {m}」だと思います。これまで調べた範囲ですが、ドイツ語の名前のない筋肉が大部分で、ラテン語由来でない筋肉名はひとつもありません。ラテン語では筋肉名と筋肉が一対一で対応しています。言葉の間違いを避ける意味でもラテン語名を優先するのではないかと思います。