コラム:日本語化したドイツ語

 既に日本語になったドイツ語はたくさんあります。当然、日本語になって本来の意味から離れてしまったものも、またドイツ語に由来すると思っていた単語が、そうでなかったものもあります。そんな単語を何回かのコラムに分けて書き出します。

アルバイト、バイト ← Arbeit {f}
 ドイツ語の本来の意味は「(本職の)仕事」や「労働」、力学の世界では[仕事=力×長さ]の意味もあります。アルバイトが「本職ではないが日銭を稼ぐための臨時の仕事」であるとすれば、ドイツ語では「Job {m}」か「Nebenarbeit {f}」でしょう。「アルバイトする」に相当する動詞には「jobben {vi}」があります。これはほとんどアルバイトと同じ意味です。

バックシャン ← back{adj} + schön {adj}
 こんな単語を知っているのも団塊の世代の人間だからでしょう。「後ろ姿だけ美しい女性」のことで死言に近いものです。英語の「back:後ろ」とドイツ語の「schön {adj}」を組み合わせた造語で、ここで挙げるのは少し強引だったかも知れません。これにあたるドイツ語は見つかりませんでした。文章にするとこんなところでしょうか:
  eine Frau, die nur von hinten schön aussieht
  eine Frau, die nur von hinten Schönheit ist
「後ろ姿だけ~」と解釈したのは、前から見ても美しければ何も「back」と但す必要はないからです。

シャン ← schön
 これこそ全くの死言。(前から見ても)美しい女性のこと。ドイツ語では「Schönheit {f}」が最も近い単語でしょうか。

ボンベ ← Bombe {f}
 高圧ガス容器のこと。身近なところではプロパンガスボンベ、ダイビング用の酸素ボンベ(ほんとうの中身は空気)などがあります。いったいどこの誰がこのグロテスクな名前を思いついたのでしょうか。思慮のない和製ドイツ語の代表と思います。「Bombe」は何と爆弾のことです。ドイツではそう呼びません。爆発して欲しくないものに爆発するものの名称を付ける訳がありません。日本には、客に「死」を連想させないようにと「4階」がないホテルがあるそうです。また居酒屋などでは「スルメ」を「金を摩る」の連想から「アタリメ」と言い換えたりしています。そこまで気を使う日本人が付けた名称とも思えません。
 ドイツ語では「Gasflasche {f}」あるいは充填物(空気など)の名称を入れて「Druckluftflasche {f}」、こういった容器をひっくるめて「Druckbehälter {m}」と呼びます。

pH(ペーハー) ← pH-Wert {m} (名詞なのに「p」は小文字)
 水素イオン濃度指数のことで、これをドイツ語と思っている人が意外と多いことに気が付きました。この呼称「ペーハー」からすると、確かに読み方だけはドイツ由来らしいのですが、実はドイツにとっても外来語で、「potentia Hydrogenii: 水の力」または「pondus Hydrogenii: 水の重さ」を示すラテン語からデンマークの学者が名付けたものです。デンマーク語では英語のように「ピーエイチ」と読みます。
 同じ意味の単語に「Wasserstoffionengehalt {m}」がありますが、これからも解るようにドイツ語であれば「Wasserstoff {m}:水素」の頭文字「W」を使っていたはずです。

(この稿、続く)

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